第三章:ジェミニができるまで

 

 さて、では、マックス社は、一体いつ、バーリーと関係を持つようになったのか。インタビューによると、マックス社は、もともとバーリーのスロットマシンやそのパーツを輸入販売していたのだそうです。

 

 そう言えばと思い、以前、某コンベンションで展示されていたので興味深いページのみ写真撮影しておいたゲーセン界の業界誌「アミューズメント産業」の資料をひっくり返してみたところ、75年3月号の広告に、それを裏付けると思われるものを発見しました。

 

 

 

 この広告が掲載された当時の日本のゲームセンター業界は、ホンモノのギャンブル機を換金せずに遊ぶ「メダルゲーム」というジャンルが大ブームとなっていた頃で、バーリーのスロットマシンも大量に輸入されている時期でした。マックス社も、それに関連する業者だったのです。そして、この時の関係を頼りに、バーリー社に「ジェミニ」の開発を訴え、結果的に成功します。

 

 ──特許とかライセンスの契約とかは?

角野 そんなものは全然なかった。最初、日本のマーケットは将来こういう風になっていきますからと、今現在みたいなパチスロ業界の形を説明して、こういう機械を作ってくれとバリーにプレゼンテーションしたわけです。バリーの社長がちょうど代わった時で、バリーの経営方針もオペレーションを主として製造メーカーとしては余り力を入れなくなった。「我々の計画では、そんなものは世の中でありえない」と言われました。取り敢えず一応は「やってもいい」ということになって、デザインからメカまで同一の等しい機械を作ったわけです。足りない部分に関しては当時バリーから供給してもらいました。

 

 なんだか散漫でわかりにくいですが、要するに「バーリーが、マックス社に部品や筐体を提供し、かつマックス社がそれで『ジェミニ』を開発する事を容認した」と言うことでしょう。このインタビュー記事は、内容はたいへん貴重なのですが、論旨が不明瞭な部分が多いのが玉に瑕です。

 

 それにしても、「デザインからメカまで同一」とは、いかに記事にする上で文字数を減らす必要があるとは言え、省略が過ぎると言うものです。特にメカ部分については、内部機構は全く異なるものであるはずです。

 

 それはさておき、バーリーが「ありえない」と言ったのは、おそらく「プレイヤーの技量で得喪を決定するようなギャンブル機はありえない」と言う意味だったのだと思います。一般論として、これは正しい見解です。

 

 マックス社は、この矛盾を、「4コマのずらし」で克服しようと考え、警察にも認めさせます。

 

角野 基本的に偶然にしないといけないんですよ。偶然にすると割数(なぞのX注・ペイアウト率の設定を意味するパチンコ業界用語)というものがないわけです。狙えば割数関係なしで無限に取られる。そこでディレーでコマずらしをしないといけない。しかしストップボタンを押してストップがかかるズレをもってしても次第に狙われてしまう。何も大当たりを当てる必要はないんです。チェリーばかり当てていれば毎回1枚ずつ増えていくんですからね。
 リールをズラすということも最初は法律違反だと言われた。それで大阪大学に機械を持っていって研究チームを作り、動体視力についての大学の資料を警察に持って行き、4コマだけズラさせてくれと言って、それが認められた。だから規則で「4コマ以内」という風になっているはずです。絵柄は21ですが、パルスモーターは全部偶数です。電気機械と言うのは偶数でないとうまくできないんです。だからパチスロ用のパルスモーターを作る時に苦労しました(後略)

 

 「偶然にすると割数が無い」は、「偶然にしないと〜」の間違いではないでしょうか。また、警察がずらしを認めるに至った論理は結局なんだったのかには言及されていない点は大いに不満です。

 

 ただ、ここから読み取れることとして、「ジェミニ」は、どんなにぴったりのタイミングでストップボタンを押しても、機械の方に出す気が無ければ、パルスモーターによってリールが停止するタイミングを「最大4コマ」ずらされてしまうと言うことでありましょう

 

 

重要な訂正と注釈(2006.09.03)

 

 上記下線部は、ジェミニにステッピングモーターが使用されている事を前提に記述されていますが、8月27日、実際にジェミニを所持しているとおっしゃるある方より、ジェミニにはステッピングモーターは使用されていないとの情報を、メールにていただきました。そのメールにはジェミニの駆動、停止の原理が説明されており、たいへん説得力のあるものでした。

 

 確かに、参考資料のどこにも、 明確に「ジェミニでステッピング(パルス)モーターを使用した」と記述している部分はありませんでしたが、この引用元が「伝説のパチスロ第1号/ 『ジェミニ』誕生秘話」と題されたインタビュー記事でしたので、その記事中の 「パルスモーターを作る時に苦労した」という談話も、当然ジェミニに ついての話であろうと判断し、このような記述となったものです。

 現時点のワタシの認識は、
ジェミニにはステッピングモーターは使用されていない
・ステッピングモーターが初めて使用された機種名は不明

となっております。つきましては、暫定的な処置ではありますが、上記下線部分を、以下のように訂正いたします。

「ジェミニ」は、どんなにぴったりのタイミングでストップボタンを押しても、機械の方に出す気が無ければ、リールが停止するタイミングを「最大4コマ」ずらされてしまうと言うことでありましょう

どうぞご了承ください。

補遺(2006.10.15)

 

 ジェミニはステッピングモーターが使用されていないことがわかる補遺ページを、ご指摘下さった方よりご提供いただいた画像と、バーリー社の内部の画像を用いて作成いたしました。

続・ニッポンのスロットマシン補遺 

 

 

 しかし、だとすると、つまるところ、パチスロは、偶然の結果機械が出す気になってくれるのを待つ「偶然のゲーム(game of chace)」なのではないでしょうか。パチンコやパチスロが賭け事では無いとする根拠は、これらは遊技者の技量によって結果が異なる「熟練のゲーム(game of skill)」だからだったと思います。警察が当初コマをずらすことを法律違反と言っていたのもこのためだと思うのですが、ずらすコマ数次第でこの辺の事情が変わるものなんでしょうか。

 

 ひょっとすると、うっかりパチンコ行政の闇の部分に触れてしまっているかもしれないなどという妄想も膨らみますが、今はパチンコ行政を批判する事が目的ではなく、そのつもりも毛頭ありません。単に素朴な疑問を呈しているだけであります。

 

←第ニ章に戻る  ↑目次に戻る↑   第四章に行く→


 

←ホームページに戻る   ←サイトマップに戻る 

 

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送